ビジネスよりも「人間に詳しい人」が活躍す時代になった。

30代の頃、ビジネス書ばかり読んでいたら、師匠に「もっと人間のことを勉強しなさい」とたしなめられたことがあります。
ビジネスは人間の営みなのだから、人間に詳しくなることが王道ということです。

同じようなことを任天堂が言っているんですね。
採用の際に「ゲームに詳しい人は要らない」という趣旨のことを伝えているそうです。ゲームではなく人間や文化に詳しい人が良いゲームを作ることができるということです。

人間の研究に関しては、古くは哲学や宗教、最近では生物学や感性工学など多くの知見がありますが、最も活用されている知見といえば、マズローの「欲求段階説」ではないでしょうか。

マズローの欲求段階説とは、人間の欲求を五つの階層に分類した理論です。

第1層:生理的欲求(食事・睡眠など)
第2層:安全欲求(住居・健康など)
第3層:社会的欲求(愛・所属)
第4層:承認欲求(自尊心・評価)
第5層:自己実現欲求(創造・成長)

低次の欲求が満たされると、より高次の欲求を求めるとされます。

実は、実証実験が不十分で、学術界では疑問を持つ学者が多いそうですが、こんなにも実用されている理論もないように思えます。

そもそもビジネス界は「第2層」…物質的な欠乏を解消することが長らくのミッションでした。
先進国でそれが一通り解決したのは1960年代と言われています。

その後、第3〜4層の欲求に対応したビジネスが盛んになりました。いわゆるブランドブームです。
これは「衒示的(げんじてき)消費と言って、優越感を満たすためにモノを所有します。
衒示的消費では、常に他者より上を目指す人が現れるので際限がありません。無限性という意味で、資本主義と非常に相性が良いのです。

僕の感覚では2000年代に入ってからですが、衒示的消費に虚しさを感じる人が増え、「第5層」に移行する人が増えたと感じています。

その背景には、それを啓蒙した企業の存在があります。
代表格はイタリアのカシミアブランド「ブルネロ・クチネリ」だと思います。
同社には「人間主義的経営」の理念のもと以下のような特徴を持ちます。

・服にブランド名やロゴが印刷されていない。
・本社は14世紀に建てられた城をリノベーションしたもの。所在地は都ではなく人口500人の村にある。
・カシミヤ工芸を次世代に継承するために学校を設立。学費は奨学金で免除されている。しかもブルネロ・クチネリに就職する義務はない。
・職人は労働者ではなくアーティストとしての地位を持つ。
・「書物は人生の道標」との思想から、本社がある村に、50万冊を超える蔵書を備えた図書館を設立した。

かっこいいですね。
ブルネロ・クチネリのユーザーは、服を買うという行為を通じ「人間主義的経営」に参画しているのです。

第4層と第5層は、見た目がよく似ていて判別に迷うことがあります。
「見て見て。ブルネロ・クチネリに共感している私、かっこいいでしょ」という動機で着ている人もいるのですが、それは、形を変えた衒示的消費で、真のフォロワーは「ダサい」と一蹴するでしょう。

見分け方は、ブランドの七光りを期待しているか? あるいはブランドの思想に共感し参画しているか?の違いだと僕は考えています。

このトレンドは消費の現場だけでなく、雇用の現場でも起きています。

2015年にコンサルティング会社のデトロイトが、世界29カ国のミレニアル世代(1980年から2000年までに生まれた世代)を対象に行った調査によれば、6割の人が、就職先を選ぶ基準として、給与でも製品でもなく「その企業が事業を行っている目的」を重視すると答えたそうです。

この世代はすでに社会に出ていますし、こうした感性を持つ人はさらに増えるでしょう。

第5層への変容は、消費と雇用だけでなく、例えば進学先の選択など、様々な分野に拡大しています。

第5層が「思想への共感」で成り立つとしたら、思想がなければ始まりませんし、それを発信し共感者を得なければなりません。
とても時間がかかるので「第5層への移行が必要だ」と気づいた時には手遅れになっているかもしれません。

始めるなら「今でしょ」と思うのですが、いかがでしょうか。 

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