「車ではなく”MINI”を」「スマホではなく”iPhone”を」と名指しされる商いを

先日、自動車ディーラーの社長から、「最近の人は、特に欲しいクルマがなく、”何でもいい”と言う人が多いんです」という話を聞きました。
確かに、燃費が良く安全で予算に合えばこだわりはないという人は多いと思います。

「何でもいい」というのは、「どんな車でもいい」という意味だけでなく、「移動できれば車でなくてもいい」と考える人もいて、自動車離れを加速させています。

この現象の背景には、看過できない重要な洞察が含まれていると思います。

実は、これは、消費者の傾向と言うよりは

「欲しいと思わせる車を作れていない、自動車メーカーの価値創造の問題」

ということです。

価値は、「機能的価値」と「感性価値」の2つに分類されます。前者は、車で言えば、燃費性能や走行性能、安全性など、「移動の道具」として役に立つ機能ということです。
後者は、「かっこいい」「乗っていて気持ちがいい」「あの車に乗っている人種の仲間入りをしたい」といった情緒や感性をくすぐる価値を指します。

もちろん全てではありませんが、総じて言えば、日本車は機能的価値に偏っています。

機能的価値は、客観的な評価ができるため、市場調査がしやすいという特徴があります。しかし、調査の精度が高まれば、どんな企業が行っても同じような結果になります。

すると、メーカー名を隠せば区別がつかない製品が生まれることになります。

これでは、生活者に「何でもいい」と言われるのは自明です。
当然、経営は熾烈な価格競争にさらされることになります。価格競争に勝つためにはスケールメリットが必要になるため、「より大きく成長し続ける」無限地獄に身を投じることになります。
働く人の心身を摩耗させますし、成長のためには不正も厭わないという文化を生む危険性も孕みます。

感性価値の高い車の1つに「MINI」があります。僕の周りにはMINIに乗っている友人が少なくとも9人はいるのですが、みんな消去法で選んではおらず「MINIが良い」と指名買いをしています。
「今度、車を買うんだ」ではなく「MINIを買うんだ」と言うのです。

車で20分もドライブすれば、数台のMINIとすれ違うほど普及しています。

内装も個性があって魅力的

乗ると分かるのですが、MINIは感性価値だけでなく、「走る。止まる。曲がる」の車としての機能的価値も高いのです。

MINIを有するBMW社は、付加価値(粗利益)が高く、好業績を続けていますが、それを裏打ちするのが「選ばれる強さ」ということです。

簡単に真似されることはないでしょうし、他社が真似をすればするほど本家のバリューを上げることになると思います。

働く人も、指名買いされれば仕事に対する誇りを持てるでしょう。

これこそが中小企業が目指す商いではないでしょうか。

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