ワガママ社長のすすめ
正解がない時代では「願望でビジネスを駆動する力」が求められると思います。
例えば、ウォークマンは、海外出張の多い井深大氏(創業者)が「飛行機の中で聞ける音楽プレーヤーが欲しい」ということで、彼のためだけに作られた製品でした。
ウォークマンがこの世に誕生する前は、誰も「ああいう物が欲しい」と教えてくれませんでした。
井深氏のワガママで生まれた製品ということで、当然、前例はありません。前例がなければ、市場調査をしても市場があるかは分かりません。
革新的な文化のソニーでさえ、社内から反対意見が出たそうですが、最終的には、共同創業者の盛田昭夫氏の熱心な説得で開発がスタートしたそうです。
今、世の中には一通りのモノが行き渡り、特段欲しいものがないという生活者が増えています。
「4Kテレビの次は8Kはいかが?」と言われても「もう十分です」という感じですよね。
そんな状況では、生活者に「何が欲しいですか?」と聞いても答えてくれません。
だから「こういうものがあったら良いな」という願望でビジネスを駆動させるという発想が必要と考えるのです。
iphoneだって、そういうプロセスで誕生したとんじゃないかな。
ところが、私たちは願望で動くことが苦手です。
このことは経営者の言葉に表れます。
「しなければならない「する必要がある」「すべき」という言葉を使うリーダーはたくさんいるが「こうしたい」と願望を伝えるリーダーは少ない。
それは教育の影響が大きいと考えます。
教育界では、五教以外の美術や音楽といった教科を「副教科」と呼びます。名称から五教科が重視されていることが分かりますね。
五教科には「これが正解」という単一解があり、限られた時間内に多くの設問を解くことで評価されます。
五教科偏重教育の影響で、私たちは大人になっても正解探しばかりしてしまいます。
それが功を奏した時代もありました。戦後では、アメリカが「これが豊かな生活」というお手本を示してくれ、その生活に登場するモノたち段取り良く作ることで豊かさを手にしました。
でも、今は分かりやすいお手本はありません。
僕は、正解探しをして失敗した経験を持っています。
新聞店の社長に就任した直後、衰退する新聞以外の売上が必要と考え、当時、活気だっていた通販ビジネスを立ち上げ、野沢菜漬けや蕎麦などの信州の名産を売りました。
しかし、商品の製造トラブルなどが続き、資金が底をつき、わずか1年で撤退することになりました。
取引先や社内に対し、撤退の理由を並べ立てましたが、今だから言えるのですが、本当の理由は情熱が切れたことでした。
なぜ切れたかというと、願望ではなかったからです。
「なんとなく儲かりそう」という動機で始めたので、儲からないとなれば、すぐに手を引くことができたのです。
もし「何としても信州の名産を全国の人たちに食べて欲しい」という情熱があれば、製造トラブルも資金不足も、何とかして克服したはずです。
そして、情熱は独自性になり、お客様に選ばれる理由となったことでしょう。
盛田昭夫氏は、自身の著書で、ウォークマンの開発を回顧して次のように記しています。
「私はこの素晴らしい製品に情熱を燃やしていたが、販売部門の人たちは一向に熱意を見せず、これは売れそうもないと言う」
超成熟社会を迎えた今、必要性や損得勘定が優先されるビジネスの世界に、願望や情熱といった人間臭いものを回復させることが求められるのではないかと思うのです。
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