貧しさのつくり方
賃金が上がらないと言っても、日本人の生活水準は、ここ60年間で飛躍的に向上しました。
NHKが1973年から行っている、生活満足度に関わる調査によると、ここ50年で、物質的満足度は20ポイントも向上しています。
GDPの成長率を見ると、1960年代にピークを迎えており、その後ずっと鈍化傾向が続いています。物質的な富が社会に行き渡った左証と言えるでしょう。
そんな時代に「お金だ」「出世だ」「消費は美徳だ」と焚き付けたところでモチベーションが発動しないのは自明のことと言えるでしょう。
しかし、一方で、社会には貧乏感が漂っていることも事実です。
生活水準が上がったのに豊かさを感じれないという矛盾は何が原因で起きているのでしょうか。
その1つは「希望」の欠如であることは間違いありませんが、もう1つ重大な要因があると思います。
それを紐解くヒントは「ラダック」という国にあります。
ラダックはインドの最北部に位置する山岳地帯で、文化的にはチベットの影響を受けています。
「この村に貧困はないよ」
ジャーナリストのヘレナ・ノーバーグ=ホッジさんが最初にラダックに行った1975年に、ある少年が言った言葉です。
ラダックの人々は、石で作った3階建ての家に住み、麦やヤギの乳からつくったバターなどを食料に生活してします。地域には豊かなコミュニティがあり、安心して暮らすことができます。
それが、わずか8年後の1983年にエレナに放った言葉がこれです。
「ラダックの人たちを助けてください。こんな貧しい私たちを」
決して生活水準が下がったわけではありません。むしろ、先進国からの観光客により経済的には潤いました。
8年間で何が起きたのでしょうか。
観光客を相手に商売をする「ビジネスパーソン」が誕生したのです。彼らは得たお金で、ジーパンなど、先進国の発明品を買えるようになり、文明を謳歌するようになりました。
しかし、当然ながら上手に商売ができないビジネスパーソンもいるわけです。
つまり、ラダックで起きたことは「自分よりも所有している人」が現れたことで、自分のことを相対的に貧しいと感じる人が増えたということです。
私たちは、豊かになるためにビジネスを営んでいるはずですが、ビジネスには、豊かさが創出されるのと比例して貧しさを生むというパラドックスがあるのです。
経済成長がインセンティブにならない時代において、そればかり追いかけ、他者と比較していたら、ビジネスが人にストレスを与えるだけのものに成り下がります。
人生において、最悪の損失だと思います。
ラダックの人々が、日々の暮らしに内在する豊かを満喫してきたように、ビジネスにも、行為自体に内在する愉悦があります。
そこに立脚する経営が求められると思うのです。
僕は、2012年の地球サミットでのウルグアイのムヒカ元大統領のスピーチが心に突き刺さりました。
「貧しい人とは、少ししかものを持っていない人ではなく、もっともっといくらあっても満足しない人のことだ。私たちは発展するために生まれてきているわけではありません。幸せになるためにこの地球へやってきたのです」
お金や出世がモチベーションにならない時代を生きる私たちに、大きな洞察を与えてくれる言葉ではないでしょうか。
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