中小企業が厳しい「賃上げマラソン」を完走するために

石破首相が2020年代中に最低賃金を1500円にすると述べたら、サントリーの新浪剛史氏は「3年内だ」と言いました。
高度経済成長期並の賃上げということになります。

これからが本番の「賃上げマラソン」ですが、すでに息切れを起こしてる中小企業が多いようです。
東京商工リサーチが9月にリリースした報道では、「中小企業は、重い人件費負担から『賃上げ疲れ』がうかがえ、持続的な賃上げ実現の課題もみえてきた」と伝えています。

どうすれば、中小企業は、このマラソンを完走することができるのでしょうか。

僕が昨年に出版した書籍「賃金が上がる!指示ゼロ経営」のテーマは、まさに「賃上げ」でしたが、そこで「賃上げは結果に過ぎない」と述べました。
「結果に過ぎない」ということは、そこにはプロセスがあるということで、正しいプロセスを歩めば良い結果が得られるということになります。

そのプロセスが、失われた30年の間に変わってきたと言われています。

これまで、日本企業の競争力を支えてきた大きな要因は「短リードタイム」(工程や作業の開始から終了までにかかる時間や期間)でした。
生活者は、欲しいモノがたくさんあり、市場は枯渇していましたので、そこに効率よくモノを押し込める企業が強かったのです。

それが、今の生活者は、モノに満たされ満腹状態で、市場の飽和が進んでいます。「4Kテレビの次は8Kはいかがですか?」と言われても、もういっぱいいっぱいですよね。
飽和した市場は真っ赤っ赤のレッドオーシャンで、ひたすらゼロサムゲームが展開されます。

こうなると経営が大きく変わります。
具体的には「生活者も気付いていない欲求を創造すること」が求められることになります。
「欲しい」「素敵」という気持ちを喚起する商品・サービス、売り方、ディスプレイなどを開発する力です。
これを「感性価値創造」と言います。

生活者も気付いていない欲求ということは、顧客に意見を聞いても答えは分かりません。
逆に言うと、感性価値創造には、新たな市場を開拓する潜在能力があるということになります。
例えば、性能的に行き着くところまで行ったトースターの世界に、「炭火で焼いたようなトーストが体験できる」という、生活者も知らなかった世界を見せたバルミューダが好例です。
我が家は、まだ使えるトースターがあるのに、思わず買い替えてしまいました。

飽和した市場での経営が、既存市場を奪い合うゼロサムゲームなのに対し、感性価値創造の世界は無限の可能性を秘めたプラスサムゲームなのです。

ところが、感性価値創造のプロセスメイキングは少々難しい。
その理由は、その源泉である創造性は、社員の心のコンディションに大きく左右され、ちょっとしたことで雲散霧消してしまうからです。

心理学者でフロー研究の第一人者である、ミハイ・チクセントミハイは、最も創造性を高める心理状態を「フロー状態」と名付けました。未来や過去、他者の評価が一切気にならない、ディープな集中状態が、もっとも人間の創造性を高めるのです。

ところが企業で行われている各種制度は、フローを妨げるものばかりです。
例えば、他者と比較する人事制度。結果を求められ、未来に意識が奪われる目標管理制度。過去の実績で評価される処遇制度などです。

これらの制度の多くは、作れば売れる時代に開発されたもので、市場が飽和した今に通用するものではないと考えます。

賃上げは「現象」です。
仕事を心から愉しめる文化が創造性を刺激し、感性価値の高い製品・サービスを生み、業績が良くなることで実現するものです。

最後に、フローのメリットは、パフォーマンスだけでなく、人が非常に幸福を感じるということを忘れてはいけません。
幸せな人生を送ることが目的で、ビジネスはその手段なのですから。


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