イオンの「賃上げが原因の業績不振」から中小企業の賃上げを学ぶ

政府は、来年度の賃上げを「今年以上」を目標とすることを決め、中央最低賃金審議会での検討を始めました。
ますます賃上げムードが高まることになりそうです。
経営者は、物価高から社員を守ることと、賃上げの原資の確保を同時に考えなければならず、悩みは尽きません。

そんな中、気になるニュースが飛び込んできました。
イオンは、2024年3~5月期の純利益が前年同期比71.1%減だったと発表しました。
原因は「賃上げによる固定費増」とのことです。
賃上げをすれば経常利益が圧迫されることは自明です。イオンは、賃上げの原資をどう確保するつもりだったのでしょうか?

報道によると、業績低迷の原因は「プライベートブランド(PB)商品の値下げで客足は増えたが、人件費の増加分をカバーするだけの利益は確保できなかった」とあります。

値下げで客足を増やし利益を確保することは想像以上に大変です。
このことを…

売価:100円
仕入れ値:70円
粗利益:30円

という商品を100個売っている会社をモデルに考えたいと思います。粗利益率30%は、小売業の現実的な数値だと思います。
仮に、固定費を2000円だとすると、損益計算書は次のようになります。

この会社が、仮に10%値下げをし、売価を90円にした場合、同じ経常利益(1000円)を出すために、何個、売らなければならないか考えてみます。(固定費は変わらず2000円。仕入れ値も変わらず70円とします)

販売個数は、売上総利益÷商品1個あたりの粗利額で算出できます。
売上総利益は、経常利益1000円+固定費2000円から逆算し、3000円必要ということになります。
値引きしたことで、商品1個あたりの粗利額は20円になったので、3000円÷20円=150個売れば、値引き前と同じ1000円の経常利益を出すことができます。
100個→150個、実に1.5倍です。
賃上げを行った場合、固定費がさらに増えていますので、もっと多く売らなければならないことになります。

とても大変なのが分かりますね。
文章の説明だけで考えると、「10%値下げしたら、10%多く売れば良い」と考えてしまいそうですが、そうではないのです。

これはいかにも大手らしいやり方だと思います。
大手は、安定した商品供給と販売システムで勝負をします。もちろん、現場に何も期待しないわけではありませんが、現場の出来不出来に依存しない経営を目指しますので、今回のような、プライスコントロールなどの一極集中の管理で対応する傾向があります。

一極集中の経営では、業績は経営陣の戦略で決まりますので、現場の業績に対する関心は薄くなる傾向があります。

こうしたやり方は中小企業には向きません。というか、中小企業の利点が消されてしまいます。
中小企業の利点は、マンパワーで付加価値を作りやすいということです。
現場で働く人が、親切な接客などで関係性を作れば価格競争に負けない経営ができます。
大手のように数多くは売れないが、一部の人に強く必要される製品の開発も得意です。
大手は「万人にとって役立つモノ」が得意領域ですが、中小企業は「ニッチだが一部の人には欠かせない付加価値の高いもの」を目指すと真価が発揮することができます。

先ほどのモデルで考えると、例えば…

売価:110円
仕入れ値:70円
粗利益:40円

となり、同じ経常利益を出すためには、75個販売すれば良いというたくらみをすることができます。
「ならば、皆で力を合わせ、頑張って80個売って、賃金を上げよう」という機運を作ることができるのです。
不可能な挑戦ではないと思います。

中小企業の賃上げ実務は、「賃上げは社長にお任せ」では危険です。
「みんなの知恵と協働で原資をつくる」という認識をつくることが、賃上げ問題を解決する王道だと考えています。


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