母が教えてくれた「”いいもの”を使うと”いいこと”が起きる」という話

能登の震災で打撃を受けた伝統工芸を支援するクラウドファウンディングが立ち上がっています。
私たちは被災者の生活支援とともに、現地の「文化」を守る責任があると思います。
それは誰のためでもない、最終的に自分に「いいこと」が起きると思うのです。

「いいもの」を使うと「いいこと」が起きる

僕は子どもの頃から、母に「いいものを使いなさい。いいことが起きるから」と躾けられてきました。
母が言う「いいもの」とは職人が心を込めて作ったものを指します。

では、「いいこと」とはどんなコトでしょうか?

先日、「箕」(み)が欲しくなり地元の商店街を歩きました。我が家には60年間使っている箕があるのですが、何かと便利なので、もう1つ欲しいということになったのです。

ところが、今、箕を売っている店は非常に少なく、結局、商店街では買えませんでした。しょうがないのでホームセンターで売っているプラスチック製のものを買おうと思ったところ、母が言うのです。

「ちょっと壊れたらゴミに出すようなものは買うな。職人が作ったものを買え」

そこで、松本市にある専門店に行きました。

ホームセンターのものと比べると、10倍ほどのお値段なのですが、100年は使えるし、壊れたら直してもらえるので「いい買い物」ということになります。
何よりも佇まいが美しい。

そして、「いいこと」が起きるのです。

GDPが増えれば私たちは豊かになれるのか?

GDPは「国の豊かさの指標」として今でも存在感を放っています。しかし、本当に豊かさを測るモノサシとして有効なのでしょうか?

ジョン・F・ケネディの実弟で政権の司法長官を務めたロバート・ケネディは、およそ60年前に、次のような言葉を残しています。

豊かさを測れないどころか、GDPに偏重すると豊かさが失われます。
GDPは、消費者が暴力的な消費をすると伸びます。
「もっとたくさん」「もっと多く」「買い替えよう」「使い捨てしよう」「他人よりよいものを」
そんな消費感性を持つ人が増えるとGDPは上がりますが、当然、環境を破壊しますし、消費しても虚しさばかりがつのります。
働く現場では「無限の成長」の圧力がかかり続け、労働者を苦しめます。
作業は徹底的に分業化され、人間は替えのきく「経済成長の部品」のような存在になっていきます。

これを豊かだと思える人など現代にはいないと思います。

売り手と顧客が「取引」ではなく「贈与し合う」関係になる

母は、我が家の箕について、たまに思い出話をします。飼っていた猫が箕を引っ掻いて困ったこと。父が存命中に、畑で採れた野菜を一緒に運んだこと…
僕が住む地方には、子どもの初誕生日に、子を箕に乗せ、唄に合わせ揺する行事があるのですが、僕の娘の1歳の誕生日で使ったのも我が家の箕でした。

じいさんの代から60年間使っている箕

いいものを長く使うと、ものと過ごした日々の思い出が積み重なり、やがて、ものに「生命が宿り」家族のような存在になります。

暴力的な消費に比べるとGDPへの貢献度は低いですが、とても心豊かな消費活動だと思います。
いや、「消費」という言葉が似つかわしくないですね。むしろ「創造活動」と呼べるでしょう。

自分が丹精込めて作ったものを大切に使ってくれるユーザーの姿を見た職人は、おおよそ仕事で得られる最高の悦びを得るでしょう。
顧客もまた、悦ぶ職人を見ると嬉しくなりますし、職人に対し感謝や応援の言葉を伝えることもあるでしょう。
何の見返りがあるわけではないのに、相手に感謝や応援の気持ちを伝えることは、人生の中でも最高峰の幸福だと思います。
そんな気持ちを受け取った職人は、さらに喜ばれる存在になろうと腕を磨きます。

職人と顧客は「取引」ではなく「贈与し合う」関係になるのです。
社会のそこかしこで、こんな関係が増えたら、GDPのモノサシだけでは測れない豊かさが社会に満ちると思うのです。

これが母の言う「いいことが起きる」ということなのです。

職人というと、「手に職を持った人」をイメージしますが、指示ゼロ経営が考える職人とは、分業化された一部分だけをやらされるのではなく、ある程度まとまった工程を、自分(たち)の意思で「ひとしごと」、心を込めて担当する人を言います。

そんな人が輩出される経営を行うこと。
そういう人が作ったものやサービスを購入すること。

そんな積み重ねが、社会に潤いを取り戻すのではないでしょうか。

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あなたの力で「いいこと」を起こして欲しいのです。
友人が立ち上げた「輪島塗」と「九谷焼」の再建にむけてのクラウドファウンディングがラストスパートに入りました。残り9日です。
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