映画「フラガール」から学ぶ、これからの経営と働き方
「仕事を愉しむ」とはファンタジーの世界でもなければ、やり甲斐を搾取したい経営者の詭弁でもなく、「成熟社会の経営」に欠かせない要件だと考えます。
なぜならば、成熟社会では相当な創造性が求められ、それは仕事と遊びの境界線がないような働き方で発動するからです。
ところが、そんな時代においても、仕事を心から愉しめている人は、全世界平均で15%に留まり、日本に至っては5%と目を覆いたくなるような調査結果が出ています。(出所:ギャラップ社 State of the Global Workplace 2021)
お金のために我慢して働いているということですが、一度しかない人生を浪費する人がこんなにも多いことは、地球規模の損失だと思います。
話は変わりますが、最近、映画「フラガール」を観ました。2006年にリリースされ、非常に高評価を博した名作です。
時代は1965年、大幅な事業縮小に追い込まれ経営危機に陥っていた、福島県いわき市の「常磐炭鉱」を舞台にした物語です。
職を失う人々と、町おこし事業として立ち上げた「常磐ハワイアンセンター」に関わる人との間に生まれる軋轢、衝突が、やがて友愛に変わっていく様子が描かれた素晴らしい作品です。
映画の中で、娘がフラダンサーになることに反対していた母親が、娘が踊る姿を見て考え方が変わっていく様子が描かれています。
そこでの言葉が心を打ちます。
「今まで、仕事ってのは、暗い穴で、歯を食いしばって、死ぬか生きるかでやるものだと思っていた。だけど、あんな風に踊って、人様に喜んでもらえる仕事があっても良いんじゃないか?」
1960年代は、世界的にGDPの成長率が鈍化傾向を始めた時代です。それはつまり「物質的な富」が一通り満たされたことを意味します。
同時に、飽くなき成長を目指し、「消費は美徳だ」と喧伝し、大量消費と大量廃棄を促した時期でもあります。
そんな時に、これまで文明化に貢献にした炭鉱から、フラダンスという「文化」に移行する物語は、私たちに大きな洞察を与えてくれます。
私たちは「より大きな成長のために準備する」という思考を訓練されて育ちました。もちろん、準備は大切なことですが、行き過ぎると、毎日が「今ここにないものを手に入れるための段取りと作業の話」ばかりになります。
それでも、思惑通りに事が進めば報われますが、これだけ変化が激しい時代では、そうはいかず、日々が焦りと不安、苛立ちに支配されることになります。
フラダンスは「踊る悦びと、それを観る顧客の歓び」が、同じ空間で一体化しています。
ダンサーは、踊りの行為から、即、精神的な報酬を得るのです。もちろん、より観客を増やしたいといったような目論見はありますが、それを実現する最も有効な方法は、「段取り」ではなく、踊っている今この瞬間を悦びに満ちたものにし、観客に感動を与えることです。
これは、いわゆる「普通のビジネス」も同じだと思います。モノの充足がほぼ完了し、心の充足という「文化的価値」に移行する時代には、高い創造性が求めらるからです。
「私のビジネスは芸能ではない」と言う人がいますが、「働く人の行為が顧客の悦びを生む」という意味で、同じだと考えています。
顧客であれ、社内の仲間であれ、日々の営みの中に喜びが生まれ、その媒介としてお金が動くから経営が成り立つわけです。
したがって、今ここにないものではなく、すでに社内にある喜びにフォーカスし、それを増幅させることが、創造性豊かで付加価値の高い経営を実現すると考えるのです。
僕は、指示ゼロ経営のミッションを『ビジネスを、お金のために我慢するものではなく、行為自体に愉悦が満ちる営みに』と定めている理由は、ここにあるのです。
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