向上心という欺瞞

最近僕は「向上心」というものに一抹の疑問を抱いています。
自分の内側から自然と湧き上がる向上心であればOKなのですが、外部の意図によりコントロールされたものである可能性があるからです。

コントロールする主体は、特定の人物というよりは、「そういうものだ」と社会に埋め込まれた、疑うことのない常識です。

それはどのようなものでしょうか。

資本主義は、無限の成長を前提とするシステム(常識)で成り立っています。
しかし、それは「無理ゲー」です。
トマ・ピケティの指摘によると、世界経済の成長率がこの先2%のペースで成長すれば、世界経済の規模は100年後には現在の7倍に、300年後には370倍になります。
そんなわけがないことは子どもにも分かりますね。

そんな無理ゲーを無自覚のうちにやらされているのが現代人で、システムの維持のためには、強制的に向上心を焚きつける必要があります。

システムの中では、向上心はビジネスの道具になります。
一般生活者に対しては、企業が「より豊かな生活を」「より優越感を得られるものを」と。
コンサルタントは企業に対し「より良い人間関係構築を」「より素晴らしいチームワークを」「より効率化を」「より高い収益率を」と焚きつけます。

無理ゲーの中で、無自覚のうちに向上心の呪縛に絡め取られていると思うのです。

しかし、中には呪縛とは無関係に生きている人たちがいます。
昨年、ホワイト企業大賞の審査でインタビューした企業は「穏やかに働く」というキーワードのもと、呪縛からの解放を志向していました。

同社では、穏やかに働くために、競争がないニッチなビジネス領域を選択しており、売上目標を年々更新することもなく、社員に「さらに上へ!」と強要することもありません。会社は十分な利益を、社員は十分な賃金を得ながらマイペースに経営をしています。
それで何も困っていないのです。

では、毎日が退屈かと言えばそうではありません。
社員さんは、お客様のために役立ちたいという純粋な思いをもとに、より良い仕事ができるように励んでいます。
内発的な向上心にドライブされているのです。結果的に業績も徐々に上がっています。

私たちは、資本主義都合の向上心という欺瞞に気づきはじめています。
そして、「一体、何をやっているんだろう?」と疑問に感じている人が増えています。
だから、1日100食売り切ったら閉店するレストラン「佰食屋」に注目が集まるのだと思います。

江戸時代は、現在と比べ人口は4分の1で、労働時間はおよそ1日あたり4時間ほどでした。労働投入量はトータルで8分の1だったわけですが、非常に文化的に豊かな生活を送っていました。
庶民は、東海道を15泊もかけて「お伊勢参り」の旅を楽しみました。浮世絵や屋台などの文化を満喫していました。
エコロジー的にも化石燃料の使用料はゼロで、完全なサスティナブル社会でした。

こうしたあり方を米国の起業家、ジェイソン・フリードは「カームカンパニー」と名付け、世界に新しい潮流を起こしています。

私たちは、心身をもう弱させながら向上心を刺激する自己啓発を行い、疲れたら娯楽で自分を癒やし再び立ち上がり、環境を破壊しながら当時の8倍も働いています。
それを「頑張っていて偉いね」と評価する人もいます。

僕は、向上心や頑張り、成長を否定するわけではありません。
人間が不健全なシステムの部品として酷使されることを危惧しているのです。

欺瞞に気づき、そろそろ違う原理を駆動させる時期に来ているのではないでしょうか。
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