感性をビジネスの駆動力にする
僕は、30代の頃「感性工学」とういう学問を学んだ時期があります。
その名の通り、人間の感性を扱う学問なのですが、これを学んだことで僕のビジネス観は大きく変わりました。
学会には学者だけではなく、ビジネスパーソンも多く所属していて、例えば「開けた瞬間に勝利を感じるビールのプルタブ」や「握った瞬間に心が落ち着いて、安全運転をしたくなるハンドル」といったプロダクトの研究者に出会いました。
そもそも感性とはどんなものなのでしょうか。
学術的な定義はあるのですが、ある先生が、僕のような素人でも分かるように教えてくれました。
「相手の気持ちや気分を適切に察し、適切なアウトプットする能力」
例えば、悩んでいる友人に適切な言葉をかけてあげられる人。
恋人が喜ぶプレゼントを選べる人。
大衆の気分を察し、ヒット商品を作れる人。
売れるPOPを書ける人。
部下がヤル気になる言葉がけができる上司。
ビジネスパーソンには必須の能力だと思います。
ちなみに、感性をロジックの対義と捉えがちですが、そうではなくロジックを含む全脳的な活動を指します。
では、感性はどうすれば磨くことができるのでしょうか。
それは、取りも直さず「相手の気分を察してアウトプットする」ことを意識して行うことだと言います。
相手の気分を察するトレーニングとして有効なのは「相手の気分をセリフで表現する」という方法です。
この手法は、指示ゼロ経営のプログラムにも応用しています。例えば、ビジョンを描く際に、ビジョンが実現した暁に、顧客や社員、社員の家族などのステークホルダーがどんな言葉を口にするかを想像するのです。
これが、やってみると想像以上に難しい。相手のことを本当に理解していないとできない芸当です。
僕の親友に、これを見事に実践している方がいます。新潟県五泉市で「エスマート」というスーパーマーケットを営む、鈴木紀夫さんです。
彼は、常にお客様の気分を察する訓練をしています。例えば、カレールゥの缶詰の前に立ち、商品を手にとっては棚に返すという行動をしているお客様がいました。
普通は「買うかどうか迷っているんだな」で終わらせてしまうのですが、鈴木さんは、なぜ迷っているのかが気になります。
そこでお客様とコミュニケーションをとったところ、お客様がこんな言葉を言いました。
「これ、何人分なんですか?」
お客様は、1缶が何人分なのかが分からず迷っていたのです。
居酒屋などで同じような経験をしたことはないでしょうか?
メニューを見ても何人分か書いていないので、何皿注文してよいか迷って、店員さんに聞いたことがあると思います。
しかし、その声を改善に活かしているお店は少ないのが現実です。
鈴木さんは、こうした体験を改善に活かします。
この訓練の積み重ねにより、今では、商品を仕入れてお客様に勧めたり、POPを書いた際に、お客様がどんな言葉を口にするかが確信をもって分かると言います。
最後に、感性工学で出会った先生に言われた言葉を紹介しますね。
「感性は、何歳になっても育てることができる」
「才能がないから」「もう年だから」と諦めそうになっていた僕を勇気づけてくれた言葉でした。
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