シン・モチベーション論

「最近の若い人は、賃金や出世がモチベーションにならない」という話をよく聞きます。
中には、昇格させられるなら退職するという人までいるそうです。
こうしたトレンドは、ヒッピームーブメントが興った60年も前から始まっているという指摘がありますが、特に近年、傾向が進んでいるのではないでしょうか。

この問題は、これまでもブログで扱ってきましたが、今日は違った視点から紐解きたいと思います。

まずは、変わった友人の話題から。
僕の友人に健康マニアがいて、人間ドックのたびに、肝臓機能を測る「γ-gtp」の値を自慢するやつがいます。
健康指標の1つに過ぎないものの向上を、まるで目的のようにしているわけですが、私たちは経済活動において同じ罠にはまっていると思います。

GDPは、経済の健康を測る1つの指標で、100年ほど前、フーバー大統領時代の米国で開発されました。当時、街は失業者で溢れ、鉄の値段が急落している…どうも経済の調子が悪いことは分かるのだが、実態がよく分からない。そこで、フーバー大統領がある経済学者に「経済の健康度を測る手段(モノサシ)をつくってくれ」と命じたのが起源です。

それが今では、手段であるGDPが目的化し、それに振り回されています。

企業経営でも、経営数値に振り回されている人が多くいます。

そして、目的(と思い込んでいるもの)を増やす手段として、人材などを「使う」という発想に陥ります。
誰かの目的のために使われるという働き方は、あまり幸福ではありません。
それなのに頑張る、その心境は受験生に似ていると思います。
受験生が辛い受験勉強に励むことができるのは、「今、我慢すれば、将来良い思いができる」という動機があるからです。

世界中に、「アリとキリギリス」のような、将来に備え、今、努力することの大切さを教訓とする物語が数多くありますね。
この発想が標準になったのは、文明が十分に発達していないため、そうしないと生きていくことができない時代が長く続いたからです。

目的を達成した時に幸福が訪れ、そのために今を我慢するという発想は、私たちの遺伝子に刻み込まれているのです。

しかし、その課題は、第二次産業革命を経て、現在までに飛躍的に改善しました。
生産が効率化すると、少ない経営資源で多くのモノを作ることができるようになるので、需給バランスから、モノの価格は下がり社会に行き渡ります。
そこに人口減少が加われば、この傾向はさらに加速します。

物質的な富が安定すると、未来にためにそんなに我慢しなくても良いことに気づく人が現れます。
その一端が、昔ではヒッピーであり、現代では賃金や出世がモチベーションにならない人たちということです。

経営数値は、これからも重要なモノサシですが、それ一辺倒ではなく、「働きがい」「豊かな人間関係」「希望が持てる」「プライベート時間の確保」など、複数のモノサシを持ち、新しい豊かさを模索する時期に来ているのではないでしょうか。


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