「信賞必罰」への誤解が招く悲惨な結末

信賞必罰の思想は、古典では三国志の時代に遡りますし、松下幸之助氏もその重要性を説いています。
今でも組織管理の定石として活用している人も多いと思います。

ところが、これを誤解して使っている人もいるようです。
本来は「手柄には必ず賞を与え、罪には必ず罰を与える」という意味ですが、後半部分を「手柄を出せなかった人を罰する」と解釈する人がいるのです。

「ウチは大丈夫」と言っている人でも、無自覚に罰を与えていることがあります。
その典型が相対評価を行い、それをもとに処遇(賞与や昇給)に差をつける評価制度です。

相対評価では、部下をS・A・B・C・Dの5段階などで評価します。Sは全体の10%、Aは20%、Bは40%、Cは20%、Dは10%などと分布を決め、賞与の原資を成績に応じ傾斜配分する方法です。
当然、競争原理が働き、低評価は罰の意味合いを持ちます。

競争原理は、時代が成長期には機能しますが、今のような低成長時代では弊害ばかりが露呈します。
成長期であれば、競争に負けた者も、それなりに恩恵にあずかることができます。
D評価を受けた人でも、少しは賃金が増えたので、家に帰れば「父さんは頑張ったんだぞ」と言うことができました。

しかし、その人は「次には頑張るぞ」と前向きになるかと言えばそうとは限りません。

人間が人間を評価するのには限界があります。まして、組織で仕事をする場合ではなおさらです。
詳しく説明すると長くなるので省きますが、組織が健全に機能するためには14の役割が必要です。しかも、その時、その状況、人間関係のバランスに応じ、適材適所で役割を担う人が出ます。
これはコントロールすることもできなければ、逐一監視することもできません。

低評価を受けた人も、何らかの役割を担ったはずですが、正当に評価されないのです。
当人は、真っ先に制度の不備を指摘するでしょう。

また罰には過去をキャンセルする効果があります。
実際に起きた事例を紹介しますね。

ある保育園では、保育終了後、規定時間までに迎えに来ない親が多く悩んでいました。そこで、「10分遅れる毎に◯◯円を支払う」というペナルティを設けることにしました。
ペナルティが嫌で時間を守るだろうとの算段ですが、結果は、むしろ時間に遅れる人が増えたのです。
理由は、罰金を払ったのだからチャラと考える人がいたからです。ペナルティが実質的に「延長保育料」になってしまったのです。

企業でD評価を受けた人が賃金を減らされたとしても、「次は頑張ろう」と前向きにならないのはこうした理由からです。

評価は、人と組織が成長するためには欠かせないものです。
問題は、それが処遇と結びつくと、罰の性質を帯び、過去をキャンセルしてしまうことにあります。

「手柄を出せなかった人を罰する」という風土では人は挑戦せず、故に成長もしません。
その上、過去から学ばずチャラにすてしまうとなればなおさらです。

信賞必罰を正しく解釈し、未来志向で成長できる制度が求められると思います。


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