企業繁栄の近道は、最も時間がかかることを丁寧に行うこと
僕は24歳で社長に就任しました。
先代の父が急逝したのをキッカケに大学を卒業した3ヶ月後に家業の新聞店を継いだのです。
今日の記事は、そんな文字通り右も左も分からない僕を指導してくれた「Iさん」という大先輩の教えを書きたいと思います。
それが今日の記事のタイトル「企業繁栄の近道は、最も時間がかかることを丁寧に行うこと」です。
Iさんは僕より25歳ほど年上の読売新聞の販売店の社長です。
業界ではものすごい成果を出していた有名人でした。
ちょっと怖いおじさんでしたが僕はIさんから学びたくて、たいして親しくもないのに図々しく会社にお邪魔していました。
Iさんの会社に行っても何を聞けば良いかも分かりません。
ただ会社に行ってはIさんの横に突っ立っている…変な若造だと思われたでしょうが、やがて僕に色んな事を教えてくれるようになりました。
「晋ちゃん、とにかくお客さんを味方につけることだよ。お客さんに喜ばれることをすることだよ」
Iさんから一番多く聞いた言葉です。
初心者の僕向けの言葉と思いきや、その後ずっと、「その日」まで僕に言い続けました。
Iさんと出会ってから15年が経った頃、僕は彼の教えを真に理解する時が来ました。
当時、新聞屋さんの営業は激しく乱暴なものでした。
営業に行く際はみんなで「エイエイオー!」をやり、まるで戦に行くような殺気で出かけました。
僕はその世界が嫌いでしたが、この方法をマスターしなければ一人前にはなれないと思っていたのです。
やがて、日本中の家庭にインターホンが普及して営業ができなくなりました。
乱暴なイメージが広がり求人をかけても人が集まらなくなりました。
仕事が愉しくなく辞めるスタッフが続出。
社風も荒れます。
商売にとって最も大切なものを失った新聞店が多くありました。
僕はIさんの教えを忠実に実践しました。
乱暴な営業に使うコストを、お客様に喜んでいただけることだけに集中しました。
社員さん総出でお客様に喜んでいただけることを考え実行しました。
ある社員さんは、朝、新聞を配る際に独居老人宅で前日の郵便物が抜かれず残っていたら家の中で倒れているかもしれませんので安否確認をしながら配りました。
実際に数名の命を救い、その活動は全社活動に広がりました。
またある社員さんはフリーマーケットを開催、ある社員さんは子ども向け餅つき大会を開催、クリスマスには高齢者宅にサンタクロースのコスチュームでサプライズを仕掛けたこともありました。
しかしコストが出るばかりで売上も利益も増えませんでした。
Iさんは僕にテキトーなことを言ったのでは?と疑うこともありました。
が、ある時期から不思議な現象が起き始めました。
それは、新聞屋さんに相談するような事ではない相談事が急増したのです。
年金の受け取りはどうしたら良いか?
税金が有効に使われていないと思うのだが。
国道の舗装が必要だと思う。
人口減少に歯止めをかけるには?
北の空にUFOが飛んでいる(笑)
ちなみにUFOは新聞記事にもなりました 笑
こうした相談を聞いているうちに、「これは生活者、個々の問題ではなく地域の問題だ」ということが分かりました。
ある社員さんが言いました。
「こうした問題は行政に依存してたら解決しない。地域の人たちと指示ゼロ経営をして解決すべきだ」
地域の方との協働が始まった瞬間です。
今では、この活動に対し行政から十分な予算をつけていただき、当社はまったく新しい業態に進化することができたのです。
Iさんの教えは正しかった。
商売は、まず先に喜びを基にした関係性があり、その基礎から、後になって収益が生まれるという真理を体験したのです。
結局、繁栄の近道は、最も時間がかかることを丁寧に行うことだと思うのです。
Iさんは突然、僕の前からいなくなりました。
最期に会った時、とても顔がむくんでいて具合が悪そうでした。
弱った姿を弟子に見られたくないのか、僕の目を見ずに言いました。
「晋ちゃん、期待してるよ。お客様に喜ばれる仕事をしろよ」
涙ぐんだ顔で言った言葉、これがIさんが最期に僕にかけた言葉でした。
変な師弟関係だった。
僕はIさんから悪いことも良いことも教えてもらいました。
僕はIさんの期待に応えられているだろうか?
なぜかIさんのことを思い出して今日のブログを書いたのです。